優れた音楽家になるための条件は何であるか。これは古くから議論の対象となってきた命題です。もちろん私はプロのミュージシャンでも批評家でもありませんので、ここで答えを示すことは出来ませんが、ひとつの思いがありますので、今日はそれを紹介したいと思います。

私は高校時代、吹奏楽部に所属しバリトンサックスを演奏していました。吹奏楽というのは皆さんご承知の通り、通常は一人で演奏するのではなく、数十人(多い時には百人以上)がそれぞれ自分の楽器を演奏し、その結果としてひとつの音楽(ハーモニー)を奏でます。ある人はトランペットを響かせ、またある人はフルートを操り、そしてまたある人はシンバルを打ち鳴らすといった具合に。

当然、部員たちの中には小学生の頃からずっと楽器を続けている者もいれば、私のように高校に入ってから始めた初心者まで、演奏者としてのキャリアはまちまちです。しかし不思議なことに、演奏の上手下手というのは経験年数とはあまり関係ありませんでした。センスといってしまえばそれまでなのでしょう。しかし「経験年数が少ない割に、上手な演奏をする部員」にはある共通した要素があったように感じます。

それは「他の音をよく聴くことが出来る」ということです。

例えば全員で全く同じ音階を演奏したとしましょう。皆同じ音を演奏しているつもりでも、楽器の個性によって彼の「ド」に比べて自分の「ド」はわずかに低かったり高かったりすることがあります。

またトランペットやホルン、あるいはサックス等の管楽器の場合、演奏する時の気温や湿度、あるいは楽器の吹き口をくわえる口の形のほんの僅かな違いによって、音は微妙に変化します。

そういった僅かな音の高低は、ただぼうっと「聞いて」いるだけでは感じられません。自らが演奏しながらも周囲の音を注意深く「聴いて」おかなければ判りません。演奏中に自分の音がズレているかどうかを他人に「訊いて」みることなんて出来ないわけですから。

周囲の音とのズレを聴き取り、それを気持ち悪いと感じて補正することが出来る部員たちは皆、メキメキと上達していきました。同時にそういった部員たちは、自分が奏でるこのフレーズには曲の中においてどんな意味があるのか、全体の中ではどんな役割を果たしているのか等を常に客観的に考えながら演奏することも出来るようになります。


演奏会は自分一人だけでは開けません。舞台の上の他のメンバーと共に演奏をします。いくら個性的な音を出せたとしても、あるいは技巧的なフレーズを吹くことが出来たとしても、周りの音との親和性が無い限り、その曲全体を(いささか乱暴な言い方ですが)破壊してしまうこととなります。

「優れた音楽家になるためには、優れた聴き手でなくてはならない」

これが私の考えです。何も音楽の世界だけではありません。周りの音(意見)を良く聴き、その上で自分の音色(個性)を十分に発揮できる演奏家(従業員)が集まる楽団(会社)は、きっとどこのコンクールに出たとしても戦えるはずです。そして彼ら演奏家を上手に導いてやれる指揮者(経営者)がいれば、金賞も夢ではないでしょう。


プロモーション事業部
増尾